この宝を土の器に
Ⅱコリント４：７－１８
パウロの歩みは信仰による歩みだった。しかし平坦な道ではなく、苦難や戦いがあった。パウロほど福音のために多くの苦難を受けた者はいない。けれども、彼は忍耐し、喜びに満たされ、力強く福音を宣べ伝えて行った。彼が苦難の中でも喜んで奉仕できたのは、宝を持っていたからだ。
彼は、宝を土の器の中に入れていると言う(7節)。この宝とは、「キリストの御顔にある神の栄光を知る知識」(6節)であり、キリストの全き贖いのことだ。
１．私たちはかつては罪の中に死んでおり、神から離れて滅びゆく者だった。世の習わしに流され、サタンに支配され、肉の欲の欲するままを行っており、生まれながら神の御怒りを受けるべき者だった(ｴﾍﾟ2:1-3)。しかし憐れみに富む神は、大いなる愛をもって私たちを見出し給うた(同4,5)。神はキリストをこの世に送られ、十字架におかけになった(ﾛﾏ5:8)。捨てられるはずのない罪なき神の御子が、父から捨てられて死なれた(ﾏﾀ27:46)。それは、罪のために捨てられるべき私たちが捨てられずに、神の子どもとされるためだった。
このキリストによって、私たちに赦罪と義認が与えられた。資格なきこのような者、土の器に過ぎない者が、ただ罪の悔い改めと十字架を信じる信仰によって、神の前に赦された者として立たせられ(ﾛﾏ3:24)、神との和解が与えられた(ﾛﾏ5:1)。私たちは、まずこの罪の赦しの恵みという宝を持っている。
２．罪が赦されて万事めでたしかと言うと、そうではない。過去の罪は清算されたが、自我が根強く残るからだ。普段はいい顔をしていても、何かあると妬みや不平・不満などの醜い己が噴き出す。結局は自己中心であり、自分が最も可愛いのだ。まさに脆(もろ)い土の器だ。
キリストは十字架にその自我を始末してくださる。自己の真相がわかり、それを十字架につけて己に死ぬというところを通って、キリストが内に生きておられるという信仰に導かれる(ｶﾞﾗ2:19,20)。この信仰に啓かれたら、私たちは神のみ心に全く従う魂になる。イエスが十字架にかかられる前、ゲッセマネで父のみ心に従われたように(ﾏﾀ26:39)、私たちも神のみ心に従うことを無上の喜びとする魂となるのだ(詩40:8)。私たちに謙遜と渇きと信仰があれば、十字架の贖いは私たちを必ずそこまで至らせる。このための主の血潮だった。
３．全き救いの信仰に導かれた魂が行き着くところは、キリストと同じ栄光の姿に変えられるという栄化の望みだ。世の終わりに主は再臨される。そのとき、私たちが栄光の恵みにあずかることができるのだ(5:1-4)。
パウロは「ですから、私たちは落胆しません…」(4:16)と言う。彼が受けた苦難は決して軽いものではなかった(2ｺﾘ11:23-27)。しかし、やがて主から頂ける重い栄光、つまり主と同じ姿に変えられる栄光を思えば、今の苦難は軽いと言うことができた。そして、その栄光の約束の保証は、内なる聖霊だ(5:5)。
私たちを義認・聖化・栄化の全き贖いにあずからせるのが、完全な福音だ。これが神の栄光の知識であり、宝だ(ｴﾍﾟ3:8)。
私たちも、この宝を持っていると言い得る者になりたい。この宝によって、信仰による歩みを進める者になりたい(5:7)。目に見える現状はどうであれ、目の付け所は見えない主だ。見える一時的なものに左右されず、見えない永遠のものに目を留めて、苦難にも果敢に立ち向かい(4:8,9)、信仰によって勝利をする生涯を送りたい。